ゴミとダイオキシン2
ゴミとダイオキシン(2−1)
ところで事故を除き、一般環境中のダイオキシンでほんとうに被害にあったと確認された例があるのだろうか。ベトナム戦争の後遺症は巷間いわれているようなダイオキシンのせいなのか、あそこでは意図的にダイオキシンをまいたわけではない。枯葉剤をまいたのだ。非意図的に生成したダイオキシンがそのなかに混入したものなのだ。葉っぱを枯らす枯葉剤が人体にいいわけがない。ひょっとするとそちらのせいの方が大きいのではないのだろうか。ゴミ焼却炉周辺の住民の乳幼児死亡率とか発ガン増加というのはダイオキシンのせいなのだろうか。そもそもサンプル母数が少なすぎて、統計的に信頼できるだけの有意な差がだせないのでなかろうか。発ガン性が確認されたというが、ダイオキシンは二十年以上まえからさんざん研究されていたにもかかわらず、WHO国際ガン研究機関(IARC)で「ヒトに対する発ガンの可能性あり」から「ヒトに対して発ガン性がある」に昇格!したのはつい先日、それも2・3・7・8TCDDだけである。ということは以前から発ガン性が確認されている例えばベンゼンのようなありふれた物質の方がより危険性が高いのでなかろうか。
環境中のダイオキシン濃度が上昇してきているという確実な証拠もない。じつは、環境中のダイキシンは超々微量である。大気中ではppq(千兆分の一)オーダーで、ゴミ焼却炉排煙や魚での濃度もppt(一兆分の一)オーダーである。これだけの微量だから測定もむつかしく、したがって、近年ぞくぞく検出されるようになったのは濃度が上昇したからというよりも、単に計測技術の進歩、すなわち検出限界がどんどん低くなってきたからである。
もちろん、ここ数十年で濃度が上昇してきただろうという状況証拠はある。塩化ビニルのような塩素を含んだプラスチックやビニール類を不完全燃焼させるとダイオキシンが発生するからである。
しかし、塩素というのは余りにもありふれた物質であり、それを微量含んだ物質はいたるところにあり、それの不完全燃焼でもダイオキシンは発生するという話もある。極端にいえばタマネギを燃やしても発生するという話も聞いたことがある。とすると昔は野焼きや焚き火、カマドでものを燃やすことは日常的にやっていたことであり、それなりの処理装置がある焼却炉排ガスより高濃度のダイオキシンに暴露されていた可能性もないわけでない。
ところでダイオキシンはかつては測定できるところはごく限られていた。現在は測定分析できるところは増えてきたが、ダイオキシンの測定には純粋のダイオキシン(スタンダードという)が必要である。となると、一番やばいのはダイオキシンを分析測定する機関であり、被害を受けやすいのは分析測定する技術者ということになるし、地震が起きてスタンダードが外部に放出されたり、マッドサイエンテイストがスタンダードを持ち出してばらまいたりするとたいへんなことになる、こちらの方が一般環境中のダイオキシン問題よりはるかにおそろしいということを聞いたことがある。(つづく)
ゴミとダイオキシン(2−2)
誤解しないでいただきたいのだが、筆者はダイオキシン恐るるにたらずといっているわけでない。ダイオキシンは深刻な問題であることは間違いなく、冬季オリンピックの開催に注ぐカネがあればそちらの方に注ぐべきであると考えている。
ただ、現実に被害がでているO157や、ダイオキシン同様どこまで深刻なのかよくわからない水道水中の発ガン物質トリハロメタンや、オゾン層破壊の元凶フロン、地球温暖化をもたらす炭酸ガスやメタンなどのグリーンハウスガスといったさまざまな環境汚染物質のなかで優先度・緊急度がどのあたりに位置するかがわからないのである。情緒的に騒ぐより、そうした優先度・緊急度指標の開発が必要なのでなかろうか。
さて、ダイオキシンを発生させないことは技術的には可能である。要するに不完全燃焼させなければいいのである。炉内温度とか集塵時温度とかいろいろあるが、いずれにせよ燃やし始めと終わりには不完全燃焼の時間が生じる。したがってバッチ式でなく、24時間連続運転がいいということになる。ゴミ量が少ないところでは、どんどんゴミを出して連続運転しろということになる。事実、厚生省では20年かけてゴミ焼却炉の数を三分の一に減らし、そのかわりすべて24時間連続運転するという。筆者はゴミ問題全体を考えるとこの方針には賛成できない。そのことは次号以下で触れるとして、ダイオキシン問題に関していうならば、燃焼技術、即ち出口で対応することは、むやみやたらにカネがかかるし、そもそも本末転倒であると思う。これは入り口で対応すべきことである。すなわち、ダイオキシンを発生させるようなゴミを焼却炉に入れさせない対策を講じるべきである。
塩化ビニルのような塩素を含んだプラスチック、ビニル類の製造を規制するか、高い税金をかけて生産を減らす、ないし塩素含有率を減らすような誘導策を講じるべきである。
しかし、最初に述べたように、これらを含まない昔ながらのゴミを燃やしてもダイオキシンが発生するという話もある。問題はその寄与率である。筆者は直感的には塩化ビニル類の燃焼に伴う発生が大半と考えているが、万が一、それはわずかな寄与にすぎず、なにを燃やしても発生するようなものであるとするならば(環境庁に問い合わせたが、塩化ビニル類の寄与率はまったく不明とのことであった)、ダイオキシンは昔からかなりあったということになる(ゴミ量は昔と比較すると格段に増えているが、そのかわり昔は野焼きや焚き火のように処理装置なしで燃やしており、現在と比べるととてつもなく高濃度なダイオキシン暴露を受けていたことになる)。とすれば、一部のマスコミや学者がなんといおうと、ダイオキシン問題するに足らずということになると思うが、いかがであろうか。いずれにせよ、塩化ビニル類の燃焼によるダイオキシン発生への寄与率、そしてゴミ焼却場周辺の全国的な疫学調査をはじめるべきである。(この項終わり)