環境漫才への招待

環境行政の総括と展望 ―2001から2002―

 

―センセイ、明けましておめでとうございます

―おめでとうじゃないよ。三月から一体半年以上もどこに行ってたんだ!

―ええ、就職も卒業もままならぬものですから、バイトで稼いでは、そのカネで放浪の旅にでてました。

―どうせ、また失恋でヤケになったんだろう。どこどこ回ったんだい。

―ほっといてくださいよ! いろんなとこへ行って来ましたよ。三月にはノルウエーの離島でオーラロをみてきましたし、九月にはキューバへ行きました。帰路メキシコで同時多発テロに遭遇し、ひどい目にあいましたけど。

―きみがいないから、二八号から「環境行政ウオッチング」が休載しちゃったじゃないか!

―どうせだれも読まないからいいじゃないですか

―うるさい!

―じゃ、仕方ない。付き合ったげますよ。ぼくも昨春から、ほとんど新聞もTVも見なかったですから。

―情けないやつだなあ。それでも大学生か!

―ま、いいですから。ところで三月以降なにがあったんですか。

―(あきらめて)わかった、わかった。三月、死に体森内閣に追い打ちがふたつ。政府が月例報告でついに「緩やかなデフレ」にあると認めちゃったこと、もうひとつは千葉県知事選で、長野、栃木につづいてまた無党派を標榜する候補が当選したこと。

―デフレってなんですか?

―・・・(絶句) もうきみと話するの、いやになったよ。通貨収縮、いやこんなこときみに言っても無駄か。要するに不景気でものが売れないから、物価が下がることだよ。わかる?

―物価が下がればいいじゃないですか。

―まあね、でも企業の利益は減り、リストラだとか倒産だとか続出する。マイカル、青木建設、大成火災海上、山ほどあるよ。失業率も上昇する一方だしね。

―ふうん、ぼくの就職口がないのもそのせいなんですね。ぼくのせいじゃなく。

―バカ、で、ついに、四月に小泉登場。いやあ、ものすごい人気だねえ、ただコーゾーカイカクって叫ぶだけなんだけどねえ。人気はいまもつづいているけど、一向に景気は回復せず、落ち込む一方。

―えっ、小泉ってあのキョンキョンが?

―(白けて)きみがキョンキョン知ってるの? モー娘。がせいぜいかと思ったよ。

―やだなあ、ギャグで受けを取ろうと思っただけですから。小泉くらい知ってますよ。コータロウでしょう?

―(顔を顰めて)話を進めるよ。一方、三月には大統領に就任したばかりのブッシュが、京都議定書離脱を表明。以降、日本は小泉、世界はブッシュを中心に動く、いいか悪いかは別にしてね。

―どっちなんですか?

―(ついに癇癪を起す)悪いに決まってるじゃないか! カウボーイ気取りの低脳とコーゾーカイカクと叫ぶだけの無責任男だぞ!

―センセイ、押さえて押さえて、ドウ、ドウ。

―いやあ、ブッシュは米国の身勝手さを象徴してるんだろうね。これから以降も対人地雷全面禁止条約批准拒否、核廃絶決議反対、国際刑事裁判所設立条約不支持と国益オンリーというか石油・軍需産業の走狗だからねえ、で、ついに同時多発テロ勃発。それでとち狂って世界最貧国へ非道な空爆だからねえ。

―テロ撲滅のためなんだから、しょうがないんじゃないですか。

―オサマがやったって証拠はどこにあるんだよ! 疑わしきは罰せずとか、推定無罪の原則はどうなったんだ! ブッシュの信仰するキリスト教の教えではイエスは右の頬を打たれれば左の頬を差し出せといったんだぜ。一体よその国に空爆する権利はどこにあるんだ。誤爆で死んでいったアフガンの無辜の民はどうなるんだ。少なくとも同時多発テロの実行犯は自らの命で償ってるんだぜ。(あまりの興奮に少し恥ずかしくなって)やめとこう、これは「環境行政ウオッチング」だから。

―センセイはオサマやタリバン支持なんですか?

―とんでもない、ぼくはあんな原理主義は大嫌いさ。でも、アメリカが正義ってのも大嘘。あえていえば、小悪を大悪が踏み潰したってことかな。でもこれはパックスアメリカーナの終りの始まりだと思うよ。

―どうしてですか?

―奢る平家は久しからずっていうじゃないか。

―(呆れて)根拠は諺だけですか。

―ま、いいじゃないか。やまない雨はない。明けない夜はないんだから。因果はめぐるだよ。で、小泉内閣だけど、確かに前例主義はなくなったね。そこだけは評価できる。だから、役人はピリピリしてるよ。

―なぜですか。

―いままでは首相ってのは、役所の振り付けと党内政治力学で動いていたんだ。だけど、小泉は平気で無視する。だから、公用車の低公害車導入だって七年かけてやるという役所の取り決めを平気で無視してすぐやれって言ってあとに引かない。5月のハンセン病隔離で敗訴して、厚生官僚の意向を無視して控訴しないって決めちゃった。道路特定財源を一般財源化するってのもそうだよね。

―いいことじゃないですか。

―いい面にでればね。でも同時多発テロ以降悪い面もいっぱい出てきた。環境には直接関係ないように見えるけど、結局のところ、かれはアメリカンスタンダードを目指しちゃってるんだ。これは決していい結果を招かないよ。まあ、不可侵と思われた政官財の牙城に穴を開けたことだけは認めるけど。

―特殊法人の見直しだってやったじゃないですか。

―なんでもかんでも民営化すりゃあいいってもんじゃないよ。確かに、非効率だとか、天下りの温床だとか、財投をじゃぶじゃぶ遣って不良債権をいっぱい作ってるとか、直さなきゃいけないところはいっぱいあるけど、民営化できないこと、しちゃいけないことだってあるよ。

―へえ、センセイは守旧派だったんだ。

―ちがうよ、組織の統治原理を変えなきゃ意味ないって言ってんだよ。民間であろうと、公共であろうと、いままでのすべての組織はそれ自体の拡大を目指してきた。でもねこれからは組織自体の変化転生を常に目指す組織ならぬ組織を目指さなきゃいけないんだよ。

―よく分かんないなあ。

―そりゃそうさ、ぼくだって分かんないもの。

―は?

―ま、いいじゃないか。それにね、コーゾーカイカクなくして景気回復なしって言ってるだろう? 景気の概念、価値観を変えなきゃあダメだよ。大体GDPで、これ以上の成長を望んじゃあいけないよ。ワークシエヤリングで、物質的には豊かにならなくても、精神的にゆとりのある社会にしなきゃあいけないんだ。

―もうセンセイったらあ、ちょっとも「環境行政ウオッチング」じゃないですか。

―(はっと気付いて)二〇〇一年だけどね、依然として表面上の環境志向は変わってはいないよ。三月には林業基本法を発展的に解消して、森林・林業基本法を制定。かつての林業一辺倒から環境保全に法文上はシフトした。三重、和歌山の知事が長野の脱ダム宣言に対抗してか、「緑の公共事業」なんて提言したし、法定外目的税として、自治体では産廃税だとか環境に着目した税の導入に俄然注目しはじめた。

―それも小泉効果ですか?

―関係ないとは言わないけど、小泉自身は地方分権とか税制改革にはあまり熱心じゃないみたいだねえ。まず変えなきゃいけないのは国税と地方税の比だと思うけど、まったく念頭にないみたいだ。公共事業の予算を一割減らしたって自慢らしいけど、問題は中身だ。諫早干拓の水門を開けるとか川辺川ダムの中止とか、パフォーマンスだけでも喝采されそうなことはいっぱいあるけど、そういうことには関心ないみたいだ。

―真紀子はどうですか?

―面白いねえ。ぼくが役人であんな大臣がいたら、自殺したかも知れないけど、見てる分には傑作、もっともっと真紀子さんには頑張ってほしいよ。役人のなかで威張っていたのは大蔵、とくに主計官僚だったけど、外務官僚ってのは大蔵官僚をも見下すくらいプライドが高いらしいからね。ま、ぼくの知ってる外務官僚は腰の低いいい人だったから、どこまでほんとうかわからないけど。でも、先日オメデタだった雅子さんは元外務官僚としてどんな気持であのバトルを見てんだろうなあ。

―そうか、雅子さんの女児誕生で、一気に女帝論がでてきましたねえ。

―でもそれ以前に天皇制論をきっちりやらなきゃいけないと思うよ。

―センセイはどうなんですか?

―ぼくは原理的には天皇制反対だよ。でもねえ、大統領制にしたら、よくなるとも思えないねえ。それに、いまの天皇ってお気の毒だと思うよ。なんせ基本的人権がないんだもの。日本のいいところってのはね、多分権威と権力と富と自由が分散してたとこだよね。大体他の国って三権は分立しているかも知れないけど、権力者が権威もカネも自由も手にしてたよねえ。でも日本の江戸時代なんてのはまるでちがうね。権威は天皇とか将軍、藩主で、権力は武士、カネは豪商が持ってて、政治に口出ししない限り一番自由だったのは町民らしいからねえ。

―いよっ、お得意がはじまりましたね。でも、これは「環境行政ウオッチング」ですからそのあたりでお開き。

―ちえっもう終わりか。これからがいいところなのに。

―ところで、さっきの環境の話なんて新聞ネタばかりじゃないですか。センセイお得意の裏話を含めて環境省の行政の総括と展望を語ってくださいよ。

―環境省発足後の環境行政か、まだ一年だもんなあ。総括には早すぎるんじゃないかなあ。各省の環境がらみの基本方針には、共管としていままで以上に関与できるようになったけど、どこまで関与できるかわからない。なんせ、環境重視とはいえ、景気回復が政府の至上命題だからなあ。でも、土壌汚染対策の法制化はできそうだよ。日本版※スーパーファンド法だよね。これが今年のハイライトかな?

※ 米国の土壌汚染法制。米国はSO2やNO2には無頓着だが、化学物質対策にはうるさくいち早く、土壌の化学物質汚染に対応した。

―なんですか、それ?

―土地売買にあたって、土壌汚染が発覚したときは、かつての地主の責任で回復させなきゃあいけないってことみたいだよ。昔、土壌農薬課長に※土壌の環境基準とか、日本版スーパーファンド法が作れませんかと聞いたとき、とても無理ですと言ってたのに比べると隔世の感があるねえ。そして、面白いのは産業界の反応、ふつうは経団連あたりが猛反対するんだけど、そうでもないんだ。ビジネスチャンス到来と見てる企業が増えてるんだろうなあ。

    ※土壌の環境基準は数年前に設定された

―あとは?

―四月から独法、すなわち独立行政法人がスタートした。ぼくがいた国立環境研究所も独法になった。

―それってなんですか。

―いままでの研究所みたいなところは、予算は交付金として毎年定額を渡してそれで終り、だから予算の増額はもうありえない、その代わりある程度自治と自由を与えるから、必要だったらで自分で調達してこいってことらしいよ。環境研も移行時は大混乱だったらしい。研究者も営業マンにならないと研究者同士でも研究費で貧富の差が随分つくんじゃないかって話だ。

―へえ、結構研究者もたいへんなんだ。でも政策とか施策の話をしてくださいよ。

―フロン回収法だとか、PCB処理法ができ、自動車NOx法も改正された。POPs(残留性有機化学物質)条約も採択した。水質では第四次総量規制計画がまとまった。グリーン調達の基本方針も閣議決定された。まあ、いろんな戦線でそれなりに頑張ってるんじゃないかな。

―一個一個の解説はしてくれないんですか。

―残念ながらページ数が足りない。

―ほんとかなあ、センセイもよく知らないんじゃないですか。じゃ、今年の展望を語ってくださいよ。

―今年は夏に※リオ+一〇、ヨハネスブルグ・サミットが開かれるけど、それに向けて温暖化がらみでなにができるかだよねえ。あと、小泉が作った総合規制改革会議が年末に提言をまとめたけど、環境関連では、いま言った土壌環境保全や温暖化の他に、廃棄物概念の再検討、企業の自主取組バックアップ、ヒートアイランド対策、自然と共生する公共事業というのを挙げてたねえ。総じて負の遺産解消を目指すってことかな。多分、環境省からのヒアリング結果を受けての提言だろうから、環境省でもある程度メドをつけようとしてるんじゃないかなあ。それがどこまでほんとうにやれるかは、昨年末決まった補正予算と来年度予算案をじっくり見ればある程度検討がつくと思うんだけど、その辺の分析は次号にしよう。

―正月休みにそれをやるんじゃなかったんですか!

―やる気はあったけど、忙しくてねえ。

―そんなこといって、どうせ朝から飲んだくれてたんでしょ。

―人間、飲まずにはいられないこともあるんだよ。ガキにはわからんだろうけど。

―へん、ガキで悪うございましたねえ。

―そう、ほんとうに悪い(笑)。それから、廃棄物・リサイクル関係もクルマリサイクル法ができるのは間違いないし、パソコンリサイクルも一応完成しそうだ。し尿の海洋投棄もいよいよ全面禁止にするみたいだねえ。

―えー、まだそんな原始的なことやってたんですか。

―うん、でも一概に悪いとはいえないなあ、閉鎖性の海域ならともかく、外洋の沖合いだったら、適当に栄養をばらまくから、魚類にはいいかも。でもねえ、最近の人間のし尿にはいろんな化学物質が混ざっていそうだから、そのほうが無難かもしれないねえ。まあ、このあたりはすべて環境庁・厚生省水道環境部時代の延長線だから、環境省になったからってわけじゃない。

―センセイの古巣、自然環境関係はなんかないんですか。

―そうそう自然公園法の見直しができるみたいだよ。「利用調整地区」「風景保護協定」だとか公園管理団体認定制度の導入とか結構意欲的な改正を行うみたいだけど、コメントするにはデータ不足だね。それから「生物多様性国家戦略」の見直しがあるねえ。以前のやつは、各省の自然保護関連の施策を羅列して修文しただけだったけど、こんどの改定作業では、エイリアン(帰化生物)とか遺伝子組み替え作物、さらには里山や海域の絶滅危惧種対策なども盛り込むことを検討しているようだ。沖縄のジュゴンなんてのも救えるのかなあ。どこまでできるかわからないけど、意気込みは買えるね。

―結局、センセイ、メニューというかインデックスを読み上げるだけでなんにもコメントしてないじゃないですか。

―だから忙しいんだってば。もうひとつ廃棄物・リサイクルでは、個別の話よりももっと注目していいのは廃棄物概念の再検討ってやつだよね。

―どうなるんですか。

―年末に論点整理ってのが出てきたんだけど、現行法では廃棄物を有価でない汚物、不要物とし、まず産業廃棄物を定義し、それ以外の汚物不要物を一般廃棄物としている。そしてし尿以外の一般廃棄物を法律用語じゃないけど、実体的に家庭系と事業系に分けているよね。そうした廃棄物の定義や区分自体も見直すとしてるんだけど、その廃棄物を家庭廃棄物と事業廃棄物、それに製品廃棄物に三区分し、製品廃棄物は完全は事業者責任つまり拡大生産者責任を適用すればどうかってことになってるらしいよ。

―事業廃棄物の処理責任はどうなるんですか? 市町村は免れるんですか?

―新聞情報だからそこまでわからない。環境省のホームページ見たけど、出てなかった。ちょっと落ち着いたら、環境省に取材して、教えてやるよ。あとねえ、地球温暖化や化学物質以上に厄介なのがコンクリートジャングルの都市の温度が上昇するヒートアイランド現象、これはねえ法律もないし、未だに責任の所在すらも明確じゃないけど、これは環境省がぜひ進めてほしいよねえ。

―原子力やエネルギー関係はどうですか

―原子力は期待の※プルサーマルが一向に軌道に乗らない。新潟の刈羽村では住民投票をやったけど、否決。三重の海山町では原発誘致派がヘゲモニーをとって、住民投票を仕掛けたけど、その直前の浜岡原発の事故がひびいてか、大差で敗北しちゃった。やっぱりCO2対策で原発を増設なんてストーリーは無理だよねえ。もっともアメリカがブッシュになってからエネルギー政策を転換。原発重視に路線を切り替えちゃったから、これからどうなるかわからないけれどねえ。でも他のどの国も追随してないみたいだよ。自然エネルギー法を議員立法でつくるって話だったけど、依然として折り合いがついてないみたいだねえ。コスト論だけでいくと、自然エネルギーはかなり苦しいみたいだからねえ。やっぱりエネルギー総抑制に向けて社会構造、産業構造を変えなくちゃだめだよねえ。こういうところにこそ、コーゾーカイカクが必要だと思うんだけどねえ。

※ 使用済み核燃料にはウランが燃えてプルトニウムが生成している。プルトニウムは核分裂物質だから、原理的には再度核燃料として用いることが可能である。これを通常のウラン燃料に混ぜて使うことをプルサーマルという。実際には運転管理や制御がたいへんらしい。

―環境省は関係ないかも知れませんが、狂牛病問題はどうですか? 発覚後の農水省の混乱振りも相当のものだったけど、農水省は発生の防止のためにやるべきことをなんにもしてなかったじゃないですか。あまりにも無責任ですよねえ。あれじゃ、第二の薬害エイズじゃないですか。

―きみの言ってることは一般論としては正しいよ。でもねえ、当時の農水官僚が未然防止のために徹底的にやろうと思っても多分不可能だったと思うよ。

―(憤慨して)どうしてですか、それこそが行政の本来やるべきことじゃないですか。センセイは自分が役人だったからって役人を庇うんですか。

―狂牛病にかかる牛の割合ってどれくらいだと思う? そしてその狂牛病の牛を食べて、ヤコブ病にかかる確率がどれくらいか知ってる? とんでもなく低いんだぜ。そんななかで、万一、いや億一を警戒して徹底した予防対策をやろうとすれば、カネもヒトもいっぱいいるんだけど、そんな低いリスクのために大蔵がカネやヒトを付けたと思う? 政治家やマスコミが動いてくれたと思う? それなくして酪農業界や肉牛業界に犠牲を強いる対策なんてとてもできなかったと思うよ。

―じゃ、センセイは農水はよくやったって言いたいんですか?

―そんなこと一言も言ってないじゃないか。かれらの過ちは情報公開に不熱心だったことだ、どういう対策を取ったか、リスクがどの程度あるのか、すべてその時点で情報公開すべきだったと思うよ。でもねえ、日本ではねえ、国民に不安感を与えるからってそういう情報を出さないことになってるんだねえ。でも、これからはそれじゃあ通用しない。これこそがグローバリゼーションだと思うよ。

―ふーん、まあ、人体に被害がでるまえに徹底的な対策をとることができたから、終りよければすべてよしか。

―そんなの分かんないよ。潜伏期間ってのが一〇年とか二〇年あるらしいんだもん。

―えー、おどかしっこなしですよ。

―それに今回とった対策は国民的パニックに応えるためなんだろうけど、まったく危険のない部位まですべて焼却してしまうことになった。総じて弊病家畜のリサイクルは崩壊に瀕しているんじゃないかな。おかげで迷惑してるのが、ごみ焼却場だ。ふだんは循環、循環って騒いでるくせに、問題が起きるとすぐこれだもんなあ。

―同じようなことまえにも言ってましたね。あ、そうか、雪印のときだ。

―多分、来年度の補正予算と二〇〇三年度予算では狂牛病対策の予算と人員はどっと増えるよ。小泉もマスコミも小さな政府小さな政府って役人減らしに夢中だけど、ほんとうは日本は十分以上に小さな政府なんだ。だからなにか問題が起きれば、こういうことになってしまう。

―で、結局二〇〇一年の総括は?

―まあ、悲喜こもごも、人生万事塞翁ケ馬ってとこかなあ。アメリカの離脱表明にもかかわらず、なんとか京都議定書はスタートするしね。そうそう、去年南九研五周年だったんだ、これもめでたい。でもねえ、年末には南九研主宰の桑畑さんのやさしかった奥さんがなくなられたことはとても悲しい出来事だったよねえ(しんみり)。あれで一気に桑畑さんが老け込まないか心配だよ。

―それに引き換え、センセイは元気ですねえ。憎まれっ子世に憚るか。

―(相手にせず)京都議定書スタートはうれしいけど、それにしてもかつての議長国日本がゴネ得だから、短期的にはいいかも知れなけど、長期的には信用なくしたと思うよ。

―どうしてですか?

―日本が同意しなければ、京都議定書は流産。だから、無制限の排出権取引だとか、森林吸収を最大限容認させろだとか、かつてのアメリカ同様のわがままいい放題で全部飲ませちゃった。要はできるだけ、血を流したくなかったんだろうな、PKOで血を流すより、こういうところで率先して血を流せば、少しは尊敬されたんだろうけどね。

―センセイも少しは血を流したらどうなんすか、流すのは授業中の冷や汗だけ。晒すのは生き恥だけなんだから。

―(ついにキれる)そういう憎まれ口を叩いてるから、いつまで経っても失恋ばっかりしてるんだ! 絶対卒業させてやらないからな!

(二〇〇二年一月四日)