環境行政ウオッチング ― 晩秋の環境戦線異常あり
H教授― ほんとだね。それに鹿児島でも台風や豪雨が随分襲った。被災者のみなさん、心からお見舞い申し上げます。ところでこういう天災で家屋を失った人に対しては国家補償もないし、保険もふつうは適用除外になっている。 でも国家が国民を守らなくてどうするって思うよね。家屋を失った人などには、補償でなくとも、復興支援金として、被災額に応じて支払うべきだよね。
H教授― な、なんだと!(いきりたつ)
H教授― あ、ゴメン。そりゃあ、××さんみたいに、実家の援助で災害なんか受けそうにない安全な豪邸を買える人はいいさ。でも、ボクなんかは三十年間働いた退職金を全部はたいても、買えたのは地すべり危険区域とかなんかに指定されているいまの中古の小さな住宅なんだ。 だから身につまされて、そういうときムリしてでも義捐金をだすようにしてるんだ。政府だって自治体だってその程度のことしなくてどうする!
H教授― その分は翌年の税金に特別加算すればいい。多くの国民はよしとしてくれるよ。
(総合治水)
H教授― たしかにそういう箇所もあるとは思うよ。でもどんな災害も防止できるような治水なんてどだいムリだし、どれだけカネがあっても足りないよ。 いまですら八〇〇兆円も未来の世代に借金しているんだから、できるだけカネを使わずに災害を起きにくくするソフトな工夫をしたり、起きても軽微な被害ですむようなことを考えたほうが大事だと思うな。 そういう意味ではダム云々よりは総合治水ってことを考えたほうがいい。
H教授― いままではゆったり流れる川の川幅を狭め直線にして、土地の有効活用を図ろうとし、その代わり川の堤防を高くし大雨のときはできるだけ早く海に流すようにしてきた。そして砂防堰堤やダムをいっぱい作ってきた。でもそういうやり方はとうに限界にきている。 山の森林を手入れして侵食を抑えるとともに保水力を高め、町の地盤を透水性にして自然の地下ダムにしたり、冠水の危険があるような場所は農地としておいていざという場合遊水地となるようにしておくことだ。
H教授― 宅地化しているところまで、いますぐ農地に戻せといってるわけじゃない。ボクだっていま住んでるところを出て行けといわれたら困っちゃうよ。 でもね、或る試算じゃキミに曾孫が出来るころは人口は半減しているそうだから、そうなれば土地にはだいぶゆとりができるから可能だろう。そうした百年先を見据えたビジョンを持つことが必要なんだ。
H教授― 可哀想に。キミには絶対だれにも負けないいいところが一つあるのにねえ。
H教授― だれの先生よりもキミの先生がいい(笑)。
H教授― (慌てて)ジョ、ジョーダンだよ。 それに山の森林を手入れすることは保水力アップだけでなく、二酸化炭素の吸収源にもなって、温暖化対策になる。
(水俣病関西訴訟最高裁判決)
H教授― うん、鹿児島も無縁じゃないあの悲惨な水俣病が奇病としてはじめて知られたのがもう五十年もまえ。この関西訴訟が提起されてからでも二十年以上経ってるから、長かったよねえ。
H教授― それだけでも一冊の本が書けるほどなんだから、思いっきり乱暴にはしょってしまうよ。 水俣で奇病が多発してチッソの排水が疑われた。六七年には早くも訴訟が始まり、六八年には渋っていた政府も公害反対運動の嵐の中でようやくチッソ排水に起因する有機水銀が原因と公式見解を発表した。裁判でもチッソが直接の加害者であるという判断が確定した。 で、政府は水俣病かどうかの認定基準を決め、認定患者にはチッソが補償し、その経費は行政の方がチッソに貸し付けるというスキームを作ったんだ。この認定基準が厳しすぎるんでないかというのがひとつの争点。 もうひとつは水俣病をもっと早期に抑えられたはずで、有機水銀の規制をしなかった行政に不作為という責任があるんではないかというのが争点だったんだ。 そして多くのチッソと国、県を被告とした訴訟がなされた。チッソは責任を認めたけど、国、県は責任を認めず、裁判は延々と長期化したんだ。
H教授― 認定患者がどっと増えて、しかも行政責任を認めれば、莫大な国家補償が必要になる。被告は国だから環境庁もその一員に過ぎず、そんなの当時の大蔵省が認めるはずもない。こうした板ばさみで担当局長がひとり自殺したことがある。 一方、患者団体のほうも長年つづく反対運動のなかで疲弊し、いろんな団体にわかれてきた。九五年、村山内閣のとき政府は行政責任には触れないまま総理が遺憾表明を行い、さまざまな援助策とチッソが未認定患者にも一時金を支払うという「最終解決案」を提示。疲れきっていた多くの患者団体が訴訟をとりさげて受諾した。これで、ようやく解決したかと思ってたんだけど、唯一裁判闘争をつづけてきたのが、このグループ。 そして今回最高裁は明確に行政責任、つまり行政の不作為を認めるとともに認定基準そのものが厳しすぎるという判断を下したんだ。
H教授― 直接かかわったことはないけど、鹿児島時代、桑畑さんがたいへん苦労されてたのを目のあたりにした。 たしか八十年代の頃だったけど担当した人から、裁判所は和解勧告だとかなんだとか詰まらないことやってないで、とにかく早く最高裁まで行って、国敗訴の判決を出してほしいといってた。そうしないと環境庁も動きようがないってね。
H教授― 認定基準を緩めなかったのは大蔵省との関係もあるけどそれだけじゃない。 というのは認定基準では有機水銀中毒症のハンター・ラッセル症候群にみられるいろんな症状が二つ三つみられるものを水俣病と認定していた。 でもねえ、水俣病といっても悲惨な劇症型水俣病の患者さんたちはとうに死んでいた。だから水俣病と認定された人だって、そういう悲惨な死に方をした患者さんと比べるとまだ軽いほうだということになる。 ましてや、いろんな症状のうちの一つ程度しかみられない人は、老化からくるものとの区別もむつかしいこともあって、思い込みであったり、或いはニセ患者が入っているんじゃないかという疑いをもっていたんじゃないかと思うな。
H教授― ひとつの症状+毛髪か筋肉の水銀濃度だとかで認定できなかったのかなあと思うけど、門外漢だからわからない。 ま、いずれにせよ今回の判決で認定基準を再検討せざるをえないんじゃないかな。 それに九五年の「最終解決」も蒸し返されるかもしれない。
H教授― うん、まったくだ。それといまの水俣市だけど、もうかつての面影は一新し、環境都市を目指して行政もNGOと連携していろいろがんばっていることを付け加えておこう。 いずれにせよ、エイズのときもそうだったけど、役人は汚職だとかの破廉恥なことだけでなく、やるべきことをやらなかった、或いは誤った判断をした場合に法的責任を問われることもあるということを肝に銘じておいたほうがいいね。
H教授― いちいちうるさいなあ。そういう意味じゃ、温暖化なんかもそうだと思うよ。 ま、温暖化問題は自然エネルギーだとか燃料電池みたいな技術的なブレークスルーだけではダメで、同時にエネルギー総体の抑制に転じるような社会的ブレークスルーが必要だろうな。
H教授― そんなことはないよ、快楽を追求するのは本能だけど快適さはまた別。快適さとは逆の、はたからみれば苦痛しかないようなスポーツに身を焦がす人は沢山いるじゃないか。それは価値観の問題なんだ。
(京都議定書発効確定と炭素税の行方)
H教授― ところでロシアが批准して京都議定書発効が決まった。来年の二月一六日だそうだ。
H教授― うん、その可能性はある、というより大きそうだし、そうなれば泥棒に追い銭ってことになるから、逃げられないような縛りを工夫しなければいけない。 だけど、それは日本にもいえることだぜ。
H教授― だって、第一約束期間には※ホットエアーを買ったり、※CDMや※森林吸収で稼いだとしても、90年比△6%達成できないのは明らか。達成できなかった分は三割増しというペナルテイを払って第二約束期間に繰り越せることになっている。
- ※ ホットエアーとは京都議定書の削減目標以上に過剰達成した分は売れることになっている。ロシアなどは削減目標は対九十年比〇%であるが、経済事情の悪化で、なにもしなくても過剰達成になる。これをホットエアーという。
- ※ CDMは途上国への援助で途上国の二酸化炭素の削減に寄与した場合、その分を自国分の削減量とできる制度
- ※ 森林は二酸化炭素を吸収して成長する。成長分を自国分の削減量とできる制度
H教授― キミが国民を代表しているわけじゃない。ガソリン代や電気代が上がるのはイヤという国民のほうが多いかもしれない。 だから、そうさせないためにも、いまのうちから炭素税ってシステムを導入しなければいけないけど、これがどうなるのか。
H教授― うん、去年の中環審専門委員会答申では炭素換算トンあたり三、四〇〇円だったけど、最終案では二、四〇〇円で三割減らしてる。家計負担は年三千円だそうだ。 鉄鋼やセメントのような多排出企業や中小企業には減免措置も導入して、税収は年五千億円、この七割を温暖化対策にあてて4%カット。これで他の施策とあわせてなんとか京都議定書クリアーって目論見だ。
H教授― ともかく産業界がOKしてくれるようぎりぎりまで税率を下げた感じだね。 そして産業界はガソリン1リットルあたり一、五円くらいの税率ではなんの抑制効果も働かないと批判している。だったらもっと税率を上げろというのが普通だと思うけど、だから炭素税は不要だという。変な批判だね。
H教授― 三、四日まえに対策案をまとめたそうだ。それによると省エネ法の強化や「流通・物流効率化法」の制定などで5%カット。あとは※京都メカニズムや森林吸収で、炭素税を導入しなくても京都議定書クリアーといっている。 ※ 京都議定書において、削減目標を容易にするため導入された、CDMや他国の過剰達成分を購入して自国の削減量とみなすシステム
H教授― 単なる数字合わせの作文に決まってるよ。これで達成できれば対策案策定チームに千万円の報奨金、その代わり未達成だったら千万円のペナルテイを課すようにしたら、チームはただちに解散するんじゃないか。
H教授― とにかく炭素税というスキームをまず入れることが重要なんだという環境省の気持ちはわかるけど、やはり低すぎると思うね。 あるNGOがトン当たり六千円から一万五千円にしろっていってるけど、たしかにこれでは抑制効果は期待できない。 もちろん環境省は税による抑制効果よりもこの税収で行う温暖化対策に期待しているんだろうけど、それがどれだけ効果があるか、なんの担保もないもんなあ。 道路特会が数兆円の規模であるんだから、ガラポンしてこれとの統合再整理を図ればいいんだろうけど、そうなると経産省と基礎産業界だけじゃなく、国土交通省とゼネコンまで敵に回すことになるからなあ。
H教授― でも財務省は本来は味方のはずなんだ。なんせ税収を増やしたいんだもの。それに京都議定書がいよいよ発効するんだから、これほどの助っ人はいないはずだ。 ま、問題は党税調や政府税調がどういう判断を下すかだ。 このまま認めるか、却下するか、或いは導入の方向性だけを確認するが、一年ずらして、その間に道路特会やエネ特会との関係を再整理したうえで、再提案しろというか。ただ単に却下ということはないと思うけどなあ。
H教授― 十二月早々には決まるんじゃないかなあ。
H教授― うるさい、でもこういうところにこそコイズミさんに蛮勇を奮ってほしいんだけど、ま、ないものねだりしてもしょうがないか。
H教授― まず炭素税をどうするかのほうが先だろう。その結論をまってから、来春までに外野を巻き込んでの省庁間での戦争になるんだろうな。 でも産業界や経産省だって一枚岩じゃないと思うんだけどね。最後まで炭素税導入反対でいけるかどうか疑問だ。 削減目標を達成できなくても、炭素税まで導入してがんばったというのと、炭素税すら導入しなかったのでは、国際的な受け止め方がちがうと思うよ。アメリカは後者の方が仲間が出来たと喜ぶかもしれないけど。
(ブッシュ再選とアルカイダー共存共栄?)
H教授― うん、総得票数で300万票以上の差だから、文句なしだな。
H教授― 人はパンのみによりて生くるにあらずって言うじゃないか。 もともとブッシュは前回の選挙では総得票数でゴアより少なく、すったもんだの末、薄氷を踏む思いで当選した不人気な大統領だった。それが九・一一のおかげで、テロリスト掃討を声高に叫ぶブッシュの支持率が九十%にまであがった。アルカイダがブッシュを英雄にしたんだ。
H教授― だろう? そしてアフガン侵攻、さらにつぎはイラクで、目の上のたんこぶフセイン体制をぶっつぶして、いまの混乱と悲惨を招いちゃった。そのおかげで、いままではフセインに弾圧されていたアルカイダが大手をふってイラクで活躍しはじめ、反米テロがイラク人民の相当部分からは拍手喝采を浴びるようになった。これはブッシュのおかげじゃないか。
H教授― ところがイラク侵攻の大義名分である大量破壊兵器はガセネタとわかり、捕虜虐待事件等も明るみにでて、国外はおろか国内でもブッシュ支持率は低下の一方、再選が危ぶまれるようになった。 そこへ時報四七号でもいったように、アルカイダの別グループによるチェチェンの学校占拠・学童大虐殺事件が起き、再び反テロの先頭に立つと自称するブッシュの支持が増え始めた。おまけに大統領選の数日前にはビンラデインのビデオメッセージがあり、流れは一気にブッシュに傾いた。つまりブッシュ再選はアルカイダのおかげだ。
H教授― で、再選後最初にしたことは、ファルージャの惨劇だ。そもそもの大義名分は極悪のテロリスト、アルカイダ=ザルカウイ一派の掃討だった。ところがザルカウイ一派にはさっさと逃げられ、米軍は残されたファルージャの人と街を破壊しつくした。
H教授― 九・一一の首謀者、アルカイダ=ビンラデインを捕捉するとして、それを匿ったアフガンを徹底的に蹂躙し、肝心のビンラデインそのものにはさっさと逃げられてしまった。 なんかおかしいと思わないか。逃げられたのでなく、逃げられるようにしたんじゃないのか そのかげで無辜の人民の無数の血が流れていく。こんな不条理があってたまるか。 意図したかどうかは別にして結果からみるかぎり、明らかにアルカイダとブッシュは共犯、共存共栄の関係にあるといわざるをえないじゃないか。
(三位一体=惨身痛い改悪)
H教授― ところで三位一体改革って知ってるだろう。
H教授― こらこら
H教授― うん、で、そのなかにごみ処理施設整備の補助金が入ってるんだ。とんでもない話だと思うよ。 容器リ法十年をまえにしての付則に基づく見直しだとか、能勢ダイオキシン汚染土の処分問題だとか廃棄物関連は依然として課題が山積みだね。こうした課題を一個一個片付けるだけでなく、廃棄物処理の法的・社会的システム自体の抜本的な見直しが必要だし、三位一体改革という名のもとで、ごみ処理施設補助金を撤廃して地方任せにするなんてとんでもない話だと思うよ。
H教授― これは一般廃棄物で、市町村責任なんだけど、各市町村ではどこでも引き取れないごみってのを明示している。処理困難物といって、ボクの住んでいるところでは「ガスボンベ、消火器、農薬、劇薬、タイヤ、バッテリー、土砂、がれき」だ。これはどうしたらいいんだ! これこそ拡大生産者責任を法的に明示すべきじゃないか。
H教授― もちろん、補助金でガチガチにしばるのは反対だけど、一般財源化すれば、ごみ処理対策なんて後回しって自治体が山ほどでてくる。
H教授― そうかもしれないが、ツケを一部の住民に押し付けたままでいいとは思えない。大体いまの廃掃法の枠組み自体が時代遅れなんだ。で、各省は猛反発。環境省は目的限定でソフト面にも対応可能な交付金に衣替えという代案を出しているけど、それがどうなるかだな。あと、環境省関係ではごみのほか、国立公園などの施設整備の補助金の廃止なども含まれているんだ。で、国立公園以外の自然公園の施設整備補助は廃止、国立公園施設整備は直轄に切り替えるといった対案を出していたんだ。各省の対案を出してきて、スッタモンダの大騒ぎ。
H教授― ところがその基本方針なるものが、中身がさっぱりわからないんだ。地方案を尊重しつつ検討するみたいな話で。そんなもの、基本方針とはいわないよ、ふつうの日本語じゃ、「尊重しつつ検討した結果」を基本方針というんだ。
H教授― さあ、でもホントは決めてるんだと思うけどな。 新聞にでかでか出てるんだけど、そのほとんどが義務教育の国庫負担金の話で、残りが社会保障と治山治水の話。それらについてもマスコミは知事会案支持のスタンスなんだけど、環境省の話なんてまったく出てこないんだ。 環境の時代だなんてウソじゃないかって思っちゃうよ。
H教授― うん、で、三位一体改革の中でも、義務教育にしても社会保障にしても治山治水にしても各省側の応援団がいっぱいいるから、各省の顔をある程度たてて、その代わり環境省の代案なんてのはあっさり却下、つまり人身御供にされるんじゃないかと悲観的になっちゃうんだ。
H教授― 一二月早々には決まるんじゃないかなあ。
H教授― こらこら、さっきとまったく同じせりふじゃないか。原稿料目当てのページ稼ぎだなんてあらぬ批難を受けるぞ。
H教授― ま、呉越同舟じゃないかな。 財務省はなんといっても歳出削減、とにかく莫大な借金を背負っているからな。総務省つまり旧自治省は政府部内では地方分権推進のためといっているし、全国知事会もこれに乗った。官邸はなんでもいから目立つ改革をしろってとこじゃないかな。 だけどこれで何が何でも国の支出を税源委譲分を差し引いての実質一兆円削減を目指すらしいから、やっぱり財政事情がメインだろう。
H教授― そう、だから痛みをわかちあおうって話だから三位一体改革というよりは国、自治体、国民の三方一両損改革ってほうが正確かもしれない。 でもねえ、残念だったのはごみ処理の場合一番実態を知り、補助金がなくなればどうなるかをよく知っているはずの自治体の環境部局の現場の声がまったく聞こえてこなかったことだ。
H教授― だって国立公園は国が管理するのが本来でしょう。 自然公園法でもそうなってるじゃないですか。
(ツキノワグマの悲劇)
H教授― うん、今年は酷暑に豪雨に台風と、まさに異常気象なんだけど、これがツキノワグマ騒動の引き金をひいたという話だ。
H教授― もともとツキノワグマは果実食の臆病な動物で、人の気配がすると避けるんだ。だからふつうは人里から離れたところでドングリなんかを食べているんだ。ところが今年はドングリが不作みたいなんだ。
H教授― 酷暑なんかが影響しているんじゃないかな。そして不作とはいえ、できたドングリなんかも豪雨や台風でふやけたり流されたりした。だから、食い物を求めて里へ降りてきて、人間とであってパニックになったんじゃないかって話だ。
H教授― かつては山里には人がいっぱいいて、里山林は薪炭の生産の場だったし、そこの落ち葉や枯れ枝なんかも畑に漉き込んだりして、手入れが行き届き、林内も明るかったから、ツキノワグマは人を避けてもっと奥山にいた。 でも、高度経済成長を経て、いまや山里には人影はめっきり少なくなり、里山林は放置され、藪だらけになってしまった。だから、ツキノワグマの行動範囲は放置里山林まで広がっていたんじゃないかな。そこへ、今回のような異常気象によるどんぐりの不作があると、人との接触事故も一気に増えてしまったんだろうな。
H教授― 或るNGOが市民に呼びかけ、都会のドングリを集めて山に運ぼうと呼びかけたんだ。
H教授― でもドングリにもいろいろあるから、地域の固有の生態系を撹乱するんじゃないかって批判的な意見もあるみたいだ。それが原因かどうかしらないが、そのNGOもそれ以上のドングリ受け入れをストップしたという話だ。
H教授― わからない。かたっぱしからツキノワグマを撃ち殺せというような短絡的な意見は論外だけど、餓死するのは自然の摂理、いわば自然淘汰で、やむをえないという意見もある。里山林の放置による薮化も地域本来の自然生態系、潜在植生への回復過程じゃないかという見方もできる。 こうした問題は科学だけじゃなく、環境倫理とか文明観・自然観といった価値観の問題が絡んできて、絶対の正解というのはないんじゃないかな。 それに直接的な原因である異常気象は地球温暖化と関係があるという見方もあって、いろんな環境問題はどっかでつながってるんだということをよく考えてみる必要があるね。 こういう天災が起きると大量の廃棄物がでて、処理場不足になってしまうとか、ほかにもいろいろあるもんね。
(さいごに)
H教授― ところでここらでCMだ。ようやくボクの個人HP (http://www.prof-h.net/)をつくったぜ。どうだ驚いたか。
H教授― なにをわけのわからないことを言ってるんだ。 じつは一年生の男子学生に頼んでつくってもらったんだ。やっぱり一年生ってのはキミなんかとちがって初々しくていいねえ。ま、まだ未完成で、文字ばっかりで読みにくいけどね。
(平成一六年一一月二一日執筆)
註:H教授の環境行政時評(EICネット)第二二講(平成一六年十一月)、二三講(平成一六年一二月予定)をアレンジしたうえ、修正・加筆しました。