環境漫才への招待

環境行政ウオッチング「容リ法、諫早干拓、オゾン層問題雑考」

(JR事故余談)

H教授― うん、長かったねえ。

H教授― ボクだってそうだよ。大阪へはしょっちゅう行ってたし、上京するときだって、福知山線を使ってたんだ。亡くなられたかたのご冥福、そして負傷された方の一日も早い快復をお祈りするとともに、こんな事故を二度と起こさないようにしなければならない。だけどそれと開通が遅れるのとはまた別だと思うよ。 もう宝塚駅周辺の混雑(註)はすごかったもんなあ。

註:大阪―宝塚間が長期の運休。宝塚以北から大阪方面にでるには事故以降は宝塚で阪急乗換えを余儀なくされた。

H教授― ま、JRの場合はいままで表沙汰にならなかった国鉄民営化の負の部分が一斉に噴出したということなんだろうけど、日本のマスメデイアは「水に落ちた犬は打て」みたいなところがあるからなあ。ついこの間まで大阪市が袋叩きだったけど、一般の会社だって、大学だって、いざとなると似たようなことになるさ。 それにしても国土交通省もひどかったよねえ。新型ATSのない線なんていっぱいあるのに、福知山線だけ新型ATS設置までダメってのは、利用者イジメだよ。やむをえない三分や五分の遅れで運転手を責めるようなことはだれもしないと約束して、一日も早く再開する、そして一方では過密で過酷なダイヤスケジュールを見直しつつ、新型ATSを設置するという同時並行的な対応をなぜとれなかったか不思議だ。 いずれにせよ、利用者の方も三分や五分の遅れでじたばたしないようスローライフを心がけることだ。

H教授― ウソつけ。キミは一時間遅刻の常習になっただけじゃないか。

(レジ袋の法制度化と容器包装リサイクル法見直し談義)

H教授― レジ袋ってのは過剰な快適さ、便利さの追求がごみを生じさせるということの一つの象徴なんだ。そんなの買い物袋を持参していけば必要ないものだし、実際ボクの母親の時代はそうしていたんだから。 ごみ減量に手を焼いている自治体ではいろんな買い物袋持参キャンペーンを実施しているけどなかなか成果が挙がらない。

H教授― 小さいものだったら断っているけど、或る程度以上の量のときは遠慮なくもらっている。で、それを全部畳んで我が家で保管している。

H教授― 趣味の鉱物採集のとき、サンプル袋として重宝するんだ。繰り返し繰り返しぼろぼろになるまで使っている。リユースの実践だ。

H教授― そりゃそうだ。だから生協なんかはレジ袋有料制にしているんだけど、ふつうはサービスの低下だと消費者に思われ、他の店との競争に負けるのがイヤだからーま、一種の固定観念、妄想だと思うけどースーパーなんかでは買い物袋持参者にはポイント制で若干の優遇措置をするくらいで、レジ袋そのものはやめられないでいるし、コンビニなんかはその程度のことすらやらず、レジ袋を垂れ流している。 自治体のなかにはしびれをきらして、レジ袋に課税しようというところまででてきた。 Aくんーあ、それが杉並のレジ袋条例なんですね。

H教授― 一応条例は可決されたけど、施行されないままもう何年か経った。 Aくんーどうしてですか。

H教授― さあ? 消費者の支持を得られるかどうか、また裁判に訴えられたら勝てるかどうか、ということで、二の足を踏んでいるんじゃないかな。 でもここに来て急展開しそうなんだ。 スーパー業界ではレジ袋有料化をきちんと法律で義務付けるべしとの意見をとりまとめたし、それを受けて環境省も経済産業省もそれぞれの審議会が同じ方向を打ち出した。

H教授― ボクの住んでいる自治体でスーパーを集めた懇談会を開いたときも、スーパー側は法律とか条例で決めてほしいといってた。 そういう意味ではレジ袋の禁止だとか有料化だとかレジ袋税だとかいうのをなんらかの形で法制化しようというんだろうけどねえ・・・ Aくんーなんだか奥歯にモノがはさまったみたいな言い方ですよ。

H教授― これは法律家に聞いてみなくちゃわからないけど、そこまで法律で縛れるかどうか、経済活動の自由を保障している憲法に違反しないかだよねえ。

H教授― コンビニ業界は依然反対みたいだし、仮に賛成に回ったとしても業界の異端児、アウトローが出現してレジ袋無料配布をやめず裁判になったときに、勝てるかどうか。

H教授― でもスーパーにしたってコンビニにしたって、レジ袋が経営を圧迫しているのは事実だから、業界挙げて買い物袋持参キャンペーンを行い、買い物袋持参者へのポイント制などの優遇措置を大々的にPRする。そして接客マニュアルで「袋がお入用ですか」と必ず聞いてから渡すようにするというのを今すぐはじめるべきだと思うよ。

H教授― さあなあ。容器包装リサイクル法の見直しをいま進めているんだけど、これの改正では対応できないんじゃないかな。

H教授― 容器リ法はそれ自体が商品にならない容器包装を対象としている。いままで無償配布していたから、適用可能だったんだけど、一枚五円というふうに有料にしてしまうと一応は商品ということになってしまう。

H教授― マサカ、それこそ憲法違反になっちゃうよ。まあ、立法段階で四苦八苦するんじゃないかな。お手並み拝見といったところかな。でもねえ、なんでもかんでも法律で決めなきゃいけないってのもなんか情けない話だねえ。

H教授― ああ、容器リ法は施行後一〇年で見直すって明記されていて、昨年辺りからいろんな議論をやっているらしいよ。

H教授― 容器リ法はもともと自治体の方から言い出したんだ。容器包装が一般廃棄物に占める割合は体積で半分ぐらい占めるし、ペットボトルなんてのは、空気を運ぶみたいなものだ。廃棄物処理経費の高騰に手を焼いた自治体はそんなものはメーカーが引き取って処理すべきだってね。ま、いまでいうEPR(拡大生産者責任)だね。

H教授― ところがメーカーや当時の通産省は真っ向から反対。廃棄物処理法じゃ自治体の責務になっているし、そんなことになればメーカーサイドの負担は莫大なものになって結局は価格にはねかえって値上げせざるをえなくなる。バブルがはじけた不景気な時代に値上げなどすれば売れ行きが落ちるのは間違いない。景気回復が国是だというのにとんでもないという主張だ。 で結局いまのような姿に落ち着いたんだけど、結果的には自治体の負担は余計大きくなったんだ。

H教授― 自治体は分別収集して引き渡すまで保管しなければいけない。となると分別回収する経費がかかるし、ストックヤード、つまり保管場所も設けなければならないじゃないか。

H教授― うん、一方メーカーサイドのほうは、自治体の負担が増えたというが、単位量当たりの回収費用は自治体ごとの差があまりにも大きい。つまり多くの自治体は合理化などのするべきことをまずすべきだって反論している。

H教授― ま、足して二で割るんだろうなあ。例えば回収保管経費の何割かをメーカーサイドが負担するとか。いかにも日本的だけどね。 さ、ほかになんかあったか。

(温暖化対策最前線とデ・カップリング)

H教授― 温暖化対策法に基づく「京都議定書目標達成計画」がゴールデンウイークの頃に閣議決定されたし、温暖化対策法が先日改正された。

H教授― 達成計画では削減目標の主要部門別割り当てが定められたけど、担保はなんにもない。言っちゃわるいけど数字の遊びだね。あと法改正で、大工場などの大発生源には温室効果ガス排出量の報告が義務付けられ公表もされることになった。これはいいことだと思うよ。自主努力で大幅な削減競争がはじまればいいんだけど、それが無理でも国内で排出量取引制度を設けるときの基礎データになるしね。

H教授― あまり進展はないみたいだな。

H教授― この図をみてごらん。日本とドイツの一九七三年からのGDPと一次エネルギー消費量と炭酸ガス排出量の変化を一九七三年を百として図示したものだ。日本では一貫してエネルギー消費量が増え、それに伴い炭酸ガス排出量も増えている。ところがドイツではエネルギー消費量は横這いで、炭酸ガス排出量は減少傾向にある。イギリスもドイツと似たような傾向で、アメリカは日本とよく似ている。いつかアメリカは先進国でなく巨大な途上国だと言ったけど、日本もそうじゃないかと思っちゃうよ。

H教授― 豊かになる途中まで汚染物質、例えば二酸化イオウの排出量は増えていくけど、或るところから豊かになっても逆に二酸化イオウの排出量はどんどん減っていく。これをデ・カップリングというんだけど、GDPとエネルギー消費の関係もも本来そうならなくちゃいけない。イギリスやドイツはこの図のようにその兆しが見えているんだけど、日本やアメリカにはその兆しがまだ見られない。 エネルギーの中長期需要の予測でも人口が減るというのに、日本はまだ増えるとしている。確かに世界一の省エネ大国にはちがいないけど、物質的欲望は増える一方で、しかもそれをよしとして「改革なくして成長なし」などと叫んでいる。これじゃあ、途上国と言われても仕方ないよ。国連常任理事国入りを目指してみっともないほどのなりふりかまわずぶり、で、その癖、コドモみたいに靖国参拝問題じゃ隣国の感情を逆なでするような・・・

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(諫早干拓の新たな転回)

H教授― うん、やはり旧来の法的慣習が勝ったということだな。 ただねえ、取り消したのは取り消したんだけど、干拓工事の漁業への悪影響については高裁も強い疑念を呈していて、長期に亘る開門調査は国の責務だとまで言い切ったんだ。 でも、国のほうは取り消したという結果だけでただちに工事を再開することを決めたんだけど、開門調査はまったくやる気がないみたいだ。

H教授― そんなのは単なる裁判官の感想に過ぎず、守る義務なんてないもの。一般の裁判でも判決には長文の判決理由というのがあって、国を被告とした裁判なんかでは国勝訴の場合でも判決理由で国を厳しく批判したりしているんだけど、国は判決だけで、判決理由はまったく無視ということがよくあるんだ。今回もその例に漏れないんだけど、地裁での常識的にはムリと思われた仮処分決定もたぶんにそうした国のやりかたがよくわかっていて、それへのレジスタンスという面があったんじゃないかと思わせちゃうね。

H教授― まあ、いずれにしても工事は九割以上終わっていて、いまさら工事中止を命じてもどうにもならないって気がした。だって潮受け堤防も干拓もほぼできあがってんだもの。いまさら潮受け堤防や干拓地の取り壊しなんてできるはずもない。

H教授― そんなことはないさ。調査するのはもちろん必要だけどその先どうなるかってことだ。 潮受け堤防の両端に水門があって、これの操作で堤防の内側に残った湾、これを調整池といっているんだけど、この淡水化をしているんだ。長期開門調査ってのはここを開けっ放し、海水を行き来させて調査しろっていうことなんだ。 だけど、有明海の生態系や環境の変化にはいろんなインパクトが加わっていて、一〇〇%の因果関係の解明なんてまずできないし、干拓工事が有明海全体の環境にどの程度の悪影響を与えたかを定量的に解明するのは困難だと思うよ。それにだれも言わないけど、養殖漁業だって結構環境負荷が大きいんだ。 ま、いずれにしても干拓地を干潟に戻したり、潮受け堤防を撤去することは不可能だろう。

H教授― 潮受け堤防ってのは実は諫早湾の横断道路としても機能しうるんだ。だったら横断道路として割り切っちゃえばいい。有料だっていいと思うよ。ボクの同僚のK先生はそれをムツゴロード構想って名付けている。 水門は開けっ放しにしておいて、調整池の淡水化なんていうことはやめるんだ。 潮受け堤防の内側の調整池は干拓地の灌漑用水の水源として利用するつもりだったみたいだけど、それは断念する。干拓地の灌漑用水は別途考えるけど、基本的には農地にするとしても、あまり水を必要としない農業を考えること。 もっとも、潮受け堤防の内側と外側の水の交換をよくし水位差をなくすためには、いまの水門2箇所だけじゃなく、もっとほうぼうに水門をつくらなきゃダメだろうけどね。 そうすれば漁業への悪影響は最小限に抑えられるし、何十年かすれば干拓地の地先水面にまた干潟ができてくるよ。

(フロン・マニフェストとオゾン層破壊)

H教授― うん、現在の冷媒用フロンの回収率は三割弱にしかすぎない。フロンは強い温室効果ガスでもあるから、回収率を六割に上げることを目指しているらしい。今年の三月にフロン回収推進方策検討会の報告書が出されていて、今月記者発表されたようだ。 じゃ、今日はちょっとフロンとオゾン層の話をしようか。知っていることを話してごらん。

H教授― ま、皮膚がんは白人に多く、われわれ黄色人種はそれほど気にしなくてもいいということだ。詳しくは知らないけど問題は紫外線の増加が生物や生態系に与える悪影響だと思う。先をつづけて。

H教授― ま、そんなところかな。地球環境問題の解決は口で言うのは簡単だが、実際は難しい。そんななかでオゾン層保護は例外的にうまくいったといっていいだろう。九六年以降逐次フロンなどのオゾン層破壊物質がつぎつぎと製造禁止されたり製造禁止の年限が示されたりしており、大気中のフロン濃度は減少に転じた。タイムラグがあるからまだ十年やそこらはオゾン層のオゾン濃度は減り続けるかもしれないけれど、基本的には解決の方向に向かっている。 もちろんまだまだ課題は多いけど。

H教授― 空調やカーエアコン、冷蔵庫などの冷媒として用いられている冷媒用フロンの回収についてはフロン回収推進方策検討会の報告書がだされていてそれに基づいた対策をうてばいいんだ。だけど、フロンはいろんなところで使われていて、断熱材に発泡剤として用いられるフロン、例えばウレタンフォームだな、については回収・破壊の技術的対応のメドがまだ立ってないらしい。これが課題の一つだ。 そしてもう一つは、代替フロンの一部はオゾン層破壊物質ではないからということで継続使用が認められているんだけど、じつは強い温室効果ガスなんだな。温暖化対策としても代替フロン対策が必要だということだ。

H教授― 詳しい理屈は忘れたけど典型的な正のフィードバック関係らしい。

H教授― うん、オゾン層破壊が進めば温暖化の進行を促進するし、温暖化が進めばオゾン層破壊を促進するという関係らしい。

H教授― そこまではいかないだろう。温暖化の進行を加速させることはなくなったということで。

H教授― ある環境問題が他の環境問題を緩和するってことはある。いつか言ってたように、中国の砂漠化が進行すれば黄砂が増える、黄砂はアルカリ性だから酸性雨を中和するって。ま、酸性雨が降れば砂漠化の進行を抑制するってことはなさそうだから、負のフィードバックとまではいえないし、そういう本来の意味での負のフィードバックはないかもしれないけどね。 ところでフロンってそもそもなんだ? 気体か液体か、どういう化学式だ。

H教授― うん、メタン(CH4)とかエタン(C2H6)などの水素(H)をフッ素にチカンした・・・

H教授― ばか、置換、置き換えだ。置き換えたものの総称で、炭素原子の数や、Hを全てフッ素に置き換えたかどうか、フッ素の代わりに塩素(Cl)を置き換えたかどうかなどで沢山の種類がある。 ちなみにフッ素じゃなくて全部塩素で置き換えると四塩化炭素CCl4になり、これがフロンの原料になるんだけれど、この塩素がそもそもオゾン層破壊の元凶なんだ。 また同じハロゲン元素である臭素(Br)も塩素と同様の働きをするらしい。臭素を含んだフロンと同様のものはハロンといい、消化剤などに使われているんだけど、こうしたものを総称してフロン類といったっていいだろう。 沸点はさまざまだから常温常圧では液体のものもあれば気体のものもある。

H教授― 塩素を含んだフロン類が成層圏で紫外線を浴びると塩素原子を放出する。これがオゾンO3をつぎつぎと連鎖反応で壊していくらしい。だから、塩素や臭素を含まないフロン、HFC(ハイドロフルオロカーボン)はオゾン層破壊には関係しない。でも強い温室効果ガスであることには変わりない。 塩素がなぜオゾンを壊すかってことだが、ちょっと話が専門的になりすぎるから、興味があれば自分で勉強してくれ。

H教授― 不論(フロン)だからな。

H教授― まったくない、こともないかな。一度だけニアミスしたことがある。

H教授― たいしたことじゃない。昔、鹿児島にいたときに北薩の大手ハイテクメーカーの環境部の人がやってきて、部品洗浄に今まで使ってきたトリクロロエチレンをやめて、フロンを使うことにしましたって言ってきたことがある。フロンは安全で無害で安定な物質だからってね。 ボクはフロンによるオゾン層の破壊の話はあまり一般には知られてなかったけど、国際的な課題になりつつあるってことを霞ヶ関で聞いたことがあったから、フロンは問題になる可能性がありますよって忠告したんだけど、怪訝そうな顔をされただけだった。あまり信用されなかったみたいだ。

H教授― うるさい。でもそれから五年も経たないうちにフロンがあれほど大問題になるとは思わなかったな。

H教授― 切り替えをしたって報告だったと思ったが、記憶が定かじゃない。

H教授― うん、これがほんとのオーゾンだ(笑―自分だけ)。おあとがよろしいようで

(平成十七年六月二十日)
※EICネットの拙稿「H教授の環境行政時評」の二八、二九号をアレンジし、全面加筆しました。