3 日米の比較と当面の結論
米国との最大の差は、米国がすべての情報・価値を数値化・定量化したうえで、客観的でオープンな検討評価を行うというプロセスを採ろうとしているのに対し、日本では基本的には定性的な評価と縦割り部局間の内部調整型のプロセスを採っていることである。
情報公開、住民関与、税制改正による財源も含めた地方分権・主権、環境重視の流れが形式的なものに終われば、従前の日本型システムが温存されるだろう。本物であれば公共事業に関しては「ノーネットロス」を明示したうえで、「回避」を最優先して検討するシステムを構築し、オフサイトでの代償ミティゲーションを制度的に義務づけるとともに、それを円滑に実施させる受け皿としてのミティゲーション・バンキング制度も検討の必要がある。
しかし私見では新たな公共事業のロスの代償ミティゲーションよりも、そうした開発自体の回避の検討を最優先させ、公共事業の主力は過去の公共事業による環境保全上のロスを少しでも代償するためのミティゲーション事業として構築する方向性を模索すべきでなかろうか。
また民間セクターに関しては、たとえば、オールジャパンで公共の福祉としての環境保全の観点からの開発許容限度を開発地域の特性に応じ法により明定するとともに、開発許容限度内であっても開発面積・費用に応じた割合で環境改変税のようなものを目的税とするようなまったく別の観点からの発想もありうるのでなかろうか。
米国にあっては大規模な環境NGOが土地を取得し、いわば民営の保護地区を設定している例が多々ある。こうした伝統がミティゲーションの概念とリンクしてバンキング制度が生まれたとも考えられる。しかし、日本の場合、そうした伝統はなく、天神崎等ごくわずかな事例がみられるのみであるし、ナショナルトラスト運動もきわめて微弱である。したがってミティゲーション・バンキング制度を構築するにしても、米国とはまったく異なった方向での検討が必要となるだろうが、これまでみてきたように、それ以前に取り組むべき課題が多すぎ、多くの環境政策がそうだったように、自治体の創意工夫ある或る種のバンキング制度が先行するしかないのでないかというのがとりあえずの筆者らの認識である。(了)
In this study, future possibility and problems concerning the administrative system on introduction of "mitigation" into Japan were discussed briefly by the following two steps.
At first, the past cases, which are similar to "mitigation" especially to "avoid" and "reduce", were analyzed. The problems on introduction of "mitigation" system into Japan were summarized as follows; 1) Protection of property rights may limit mitigation possibility. 2)Habitual practice of which applicant often change the plan in the process of prior consultation with administration would not match the mitigation system.
Second, the principle of consideration priority was studied. As results, it was indicated that the standardization of No-Net-Loss system might be needed for observance of the principal. Also, the principal might be ignored because of the high social cost needed for change of the plan. Accordingly, we pointed out that the "mitigation banking" in Japan would work negatively on incentive to observance of the principal.